記事No.30 へのコメントです。
野澤がRF900Rの開発に携わることになり、オープンクラスのスポーツバイクの市場に目を向けたとき、何かが不足しているように思えた。市場には高性能を誇るスズキGSX-Rシリーズのようなアグレッシブなバイクが存在する一方で、快適性のみを追求した、特徴のすくない750ccや1100ccのバイクが存在していた。彼は、それらの設計のうまさは認めるものの、機能やスタイルの点で、レーサーレプリカのようなエキサイティングな雰囲気を備えていないことに物足りなさを憶えた。そこで野澤は、自分のバイク仲間をはじめ数多くのライダーに接し、彼らがいまライディングスタイルに何を求めているのかを尋ね歩いた。その結果、彼らが共通して、あるひとつの理想のライダー像を思い描いていることに気がついた。それは、オープンロードではあくまでフリーな走行を。マンウテンカーブではハンドリングを存分に楽しむ。経験値豊かで思慮深いライダー。単なる気取り屋ではなく、成熟した独自のライディングスタイルをもったライダー・・・。つまり、誰もがその思い切りのよい走りを見てリーダーとわかる、カリスマ性を秘めたライダーこそが、理想のライダーの姿として求められていることを、野澤は見出したのである。そんなライダーにふさわしいマシンとはなにか。フィーリングから個々のパーツに至るまで、いままでにない魅力的なキャラクターを備えもつマシン。ただ単に高性能、高品質であるばかりでなく、ライダーのキャラクターを活かしきり、かつフィーリングを最大限に引き出すマシンでなければ、はっきりとした理想をもつライダーたちを満足させることはできない。彼が頭に描いたマシンは、トータルバランスに優れたオールラウンド・スポーツバイクだった。その要素を「スポーツ性」、「快適性」、「実用性」の三つのキーワードで定義づけた。
「スポーツ性」の面においては、レーサーレプリカにごく近いものでなけらばならない。しかし、一般道に於いてレーサーレプリカよりも扱いやすくなければオールラウンド・スポーツとしての幅が狭くなってしまう。そうした相対する要素を同時に満足させるには、最高のエンジンと最高のシャーシ技術の採用が不可欠だった。次に「快適性」。長時間のタンデム走行において、ノイズと振動を最低限に抑えたものでなければならない。加えて、ライダーが必要以上に前傾姿勢をとることのないライディングポジションも考えなければならなかった。最後に「実用性」。大小のユーティリティスペース、21lの大容量フューエルタンク荷掛けフックを備えるなど、ツーリングマシンとしての実用性を考慮した。その一方で、ハイスピードでの走行中はもちろんのこと、木陰にパーキングしているときでも、誰の目にも映えるスタイリングが要求されたのである。
常に野澤とその仲間達は、それぞれが潜在的にもっていた、心の琴線に触れるようなモーターサイクルを追い求めてきた。それが次第に「自分たちが追い求めていたものは、まさにこれだ」と直感的に感じるまでに至ったのである。 [ この記事にコメントを返信する ] [ 原文引用 ]